不登校の女の子が性被害に遭ってから立ち上がるのを助けてくれた絵本たち(後編)
フリースクール性被害裁判の原告女性の推薦図書を紹介します。
「動画編」「前編」に続き、不登校保護者会では、先日のフラワーデモに参加した有志と事務局の保護者たちで分担して、実際に読んでみました。それぞれの図書の紹介には、私たちの感想も添えています。
不登校の女の子が性被害に遭ってから立ち上がるまでに助けになった本のなかから、今回は後編です。
追記(12月6日)
NHK「クローズアップ現代+」のWEBサイトにて、こちらに掲載している「原告女性による推薦図書リスト」が紹介されました。
【性暴力を考える vol.39】子どもが性被害に遭ったとき 私は・・・ 2人の親の思い - みんなでプラス - NHK クローズアップ現代+
※番組の取材に応じた親子は裁判の原告女性ではありません。
目次
- 5. 『わたしのからだよ!―いやなふれあいだいきらい』
- 6. 『男の子を性被害から守る本』
- 7. 『小さな女の子・男の子のためのガイド(性虐待を生きる力に変えて)』
- 8. 『10代の少女のためのガイド(性虐待を生きる力に変えて)』
5. 『わたしのからだよ!―いやなふれあいだいきらい』
※ながらく絶版だったためAmazonではプレミアが付いて高額になっていますが、最近「NPO法人 女性と子どものエンパワメント関西」によって復刊されたので、こちらから購入できます。
30ページの薄いブックレット。
子どもが、望まないシチュエーションで嫌な触られ方をしたとき、
「さわらないで! そんなこと きらい!」
と反射的に言える子になるように、
毅然とした独立心を養うのが本書の目的なのでしょう。
「教え込む」という著者たちの強い意志が反映されている絵本です。
中身は、モノクロのスケッチと、ひらがなの易しい文章という極めてシンプルな構成。
大人向けの解説もあります。幼稚園や小学校で全員に配布した方がいいと思いました。
メディアによる紹介記事
6. 『男の子を性被害から守る本』
前半は子供への説明。
いいタッチ悪いタッチ。
(愛されていると感じるか、そうでないか)
「メグさんの 男の子の体 Q&A」と同じ三輪妙子さんによる翻訳。原題「it happens to BOYS too...」のとおり、あまり語られることも知られることも少ない男の子への性的虐待について書かれた本です。
ページ数は多くないですがギュッと詰まった内容で、男の子ならではの事情にも触れながら子供向け・親向けの解説が書かれています。子供向けのページは全て振り仮名付きで子供は自分でも読めるよう配慮がされています。
子供向け(振り仮名付きの部分)
・いいタッチとわるいタッチの違い
・性的虐待とは何か
・男の子への性的虐待のウソホント
・君は悪くない
・加害者が君をだます手口
・君にできること
・大人が思う、子供への性的虐待のウソホント
・どうして性的虐待をする大人がいるのか
・被害者の体験談(大人になってからの回想)
親向け(振り仮名なし)
・子供の被害に気付いたときの親の心情
・注意すべき子供の変化
・子供を救うためにできること
・あとがきと解説
嫌な触られ方をしたときに「いやだ!」と言えなくても君が悪いわけではないよ。とまず子供が抱く恐怖心や不安の心に寄り添ってから、後の項で「いやだ!」と拒否することが君にできることだよと続く書き方は安心感と勇気をくれそうです。
振り仮名付きのページは子供一人でも読めそうですが、性的被害にまだあっていない場合だと被害者の体験談などは子供にはショックが大きいかもしれません。大人と一緒に少しずつ読んでいくもの良いと思います。
最後の田上時子さんによる解説には、日本社会ならではのジェンダーの問題、男性が声を挙げにくい問題点も書かれています。
「防止」が大切だが子供に無力感を教える内容(不審者には気を付けなさい!)では不十分。「防止」には子供ができる具体的な方法や正しい知識が重要。子供たちの力を私たち大人は肯定し信じること。と締めくくられています。
性被害についての本なので、同意については記述はありません。
■きみが悪いわけではない…
たとえ…君がすぐに「やめて」と言わなくても
たとえ…さわられたときに、気持ちよく感じたとしても
たとえ…誰かに話したのに、しんじてもらえなくても
たとえ…あなたがその人のことをすきでも
君のからだは、君だけの大切なもの。だから、
自分が、いつ、ふれられたいかは、
君自身が決めていい。
男の子やおとなの男性もたくさん、今まで性的虐待を受けてきた。
君が性的に虐待されたことは、だれも君の顔を見ただけではわからない。だから、ちゃんとそのことをだれかに話して、助けを求めることが大事なんだ。
「気を付けなさい!」は子供に無力感を感じさせる言い方
「防止」に力を入れましょう。そしてその防止策は従来の「不審者に気をつけなさい!」「知らない人についていかないように!」というような、子どもが無力感を感じるようなものでは十分ではありません。暴力とは力の落差が乱用されることをいうのですから、子どもに無力感を教えるような防止策は有効ではありません。
- 「親がどう話を聞いたらいいか」は難しい問題ですよね。そもそも子どもが話してみようと思える親になってなきゃ、話してくれないだろうし。
- 男の子や男性のサバイバーが沈黙を破りにくい理由を読んで、男性の先輩が「電車の中で後ろから女性に腰を押し付けられて怖かった」とみんなに話したときに「ラッキーだったね!」と流され、先輩も「確かに!」とノリで返していたことを思い出しました。本に書いてあるとおりのことが起きていました。
- 「やめてと言えなくても自分を責める必要はない」とあるのはホッとします。
7. 『小さな女の子・男の子のためのガイド(性虐待を生きる力に変えて)』
小さな女の子・男の子のためのガイド (性虐待を生きる力に変えて) | カーリル
このシリーズは絵本ではなく活字の本。
構成は
- 大人の方へ
- 女の子へのガイド
- 男の子へのガイド
- 再び、大人の方へ
となっています。
最後には具体的に相談機関も記されています。
はじめの「大人の方へ」のところで
性虐待を受けたことのある女の子・男の子(概ね12歳以下)のために書かれたものです。9歳以上のお子さんは、子ども自身でこの本を読むことができるかもしれませんが、一部の言葉遣いや考え方については大人の手助けが必要になるかもしれません。もっと年下のお子さんには、大人の助けが必要。
性虐待から恢復するためには、子どもたちには大人の助けが必要であり、あなたが一緒に読んであげることは、大きな援助になるでしょう。
と、まず、大人へのメッセージから入っています。
この本を読む子どもたちへと最初にあり
「わたしたちの本を開いてくれて、どうもありがとう」
と、はじまるところにも、ほっとしました。
内容は事例が具体的に書かれています。
子ども達に3つのことで役に立つと伝えています。
- 「性ぎゃくたい」がどんなものであるかを教えてくれる。
- あなたの感じていることを、あなた自身がよく理解できるようてつだってくれる。
- どのように助けをもとめたらよいかを教えてくれる。
個人的には、本の紹介や性虐待もですが、様々な傷つきで、心が支配された時の混乱を説明する図解が、とてもよく、整理できました。
- 虐待を受けたときの心の中の図は胸が痛みます。体罰やハラスメントを受けた時にも起こるかもしれませんね。つまりは人権が侵害されたとき。
8. 『10代の少女のためのガイド(性虐待を生きる力に変えて)』
10代の少女のためのガイド (性虐待を生きる力に変えて) | カーリル
性被害を受けている少女・子どものころ性虐待を受けた少女へ向けの、文字通りガイドブックです。上の『小さな女の子・男の子のためのガイド』が幼稚園~小学生を対象にしているのに対して、本書は中学生・高校生、大学生の女子向けに書かれています。20代の女性にも 役立つでしょう。
心理学的なアプローチのほか
人権問題にも触れていて
自身の怒りや悲しみの対処の仕方から
加害者を社会的に追い詰める方法まで
かなり詳しくかかれています。
内容の一部を紹介すると
- 性虐待ってどういうこと?
- どんな人が性虐待をするの?
- 性虐待を受けたとき、どんな気持ちになるの?
- 成長するにつれて出てくる気持ちは?
- なぜ性虐待を受けたことを話す必要があるの?
- 話したくないと思ってしまうのはどうして?
- 誰に話したらいいの?話したらどうなるの?
- あなたと彼との関係は?──チェックリスト
- セクシュアルハラスメント
- 性感染症とは?妊娠したら
など、辞書代わりにに使えるほど充実した内容です。女子のいる家庭では必ず本棚においておきたい一冊です。
「性虐待を受けた10代の少女の身近にいる人へ」「性被害を受けた少女の身近にいて、少女から性被害を受けたと知らされた人へ」など、親として知りたいことも載ってます。
導入部はとても優しいトーンで始まります。心が傷ついた状態でも安心して読み進められそうです。
子どもの権利条約もしっかり取り上げられて、その上で刑法その他の解説と、泣き寝入りしないために関連法規の条文、全国の相談先リストなど、とにかく詳しいです。知識だけでなく、具体的な行動を起こすまで導いてくれます。
「なにが性加害か」という、発達凸凹の子が認識しづらい事例など、事前に知っておくべき知識が満載です。
引用や参考文献もしっかりしています。
各都道府県の条例や法的なサポートも。
警察やワンストップセンターの一覧もあります。
あなたの権利と、あなたを守る法律は、
小中高校・大学生が知らなければなりません。
- この第3巻は、都の相談員が執筆しています。現場の人ですね。
- 最初に「何が性虐待にあたるのか」を定義しているのも大事です。性被害対策や子どもの権利の擁護は、まずこの認識を子ども自身と社会で共有するところから始まるのでしょう。
- こどもを守るための法律を丁寧にまとめているので、一家に一冊配布してほしいくらいです。
この「ガイドシリーズ」は、様々な年代・性別の子どもたち向け、また親御さん向けなどがあります。とても分かりやすくて正確な情報が書かれてありますので大変おすすめです。
Amazon.co.jp: ガイド (性虐待を生きる力に変えて)
- このシリーズ、ボリューム満点ですよね。最初から通読しようとせず、目次を見て必要そうなところから拾い読みするとか、パラパラと眺めてみるだけでもよさそう。
- 導入分にはホッとさせる工夫が随所に見られるのが良いと思います。